日米首脳会談と両岸関係

すでに旧聞に属するが、今年(2021年)4月16日(日本時間4月17日未明)、日米首脳会談が行われた。1月20日、「バイデン政権」発足以来、初めて「バイデン大統領」が、直接、外国の首脳と会ったのである。

 当日の会談では、まず、「バイデン大統領」と菅義偉首相が、1対1(通訳を含めると2対2)でお互いの距離を縮めたという。次に、日米の重要メンバーらが少人数で会合をもった。その後、日米関係者全員で会談を行っている。

首脳会議では、最重要テーマである台湾について話し合われた。周知の如く、近年、米国内では「中国脅威論」が噴出している。「バイデン政権」のみならず、米連邦議会超党派で、台湾重視の方向に舵を切った。

その他、首脳会議では、尖閣諸島問題、香港・新疆ウイグル問題、東京五輪(コロナワクチンと関連)、温室効果ガス、経済協力、(拉致問題を含む)北朝鮮の非核化等が話し合われた模様である。

菅・バイデン会談後、「日米共同声明」が出された。その中で「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記された。日米首脳の合意文書に「台湾」が盛り込まれるのは、佐藤栄作首相・ニクソン大統領の共同声明以来、52年ぶりである。

菅義偉首相は「バイデン大統領」との共同記者会見で、「台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間で一致しており、今回改めてこのことを確認した」と述べた。だが、「バイデン大統領」は主に日米経済協力の強化に言及しただけで、台湾に関しては何も言及しなかった。中国を必要以上に刺激するのを避けたのだろう。

実は、日米首脳会談では、双方が相手側に対し不満があったという。

米国側としては、対中包囲網の一環として、「日米共同声明」の中に、しっかりと「台湾」の共同防衛を明記したかったと言われる。

現在、米中間では「第1列島線」(日本の九州・沖縄から台湾・フィリピン・インドネシアを結ぶ線)をめぐる攻防が激化している。中国としては、これを突破し、「第2列島線」(伊豆・小笠原諸島からグアム・サイパンを含むマリアナ諸島群などを結ぶ線)、できれば「第3列島線」(ハワイから南太平洋の島嶼サモアを経由してニュージーランドを結ぶ線)まで進出したいだろう。他方、米国は「第1列島線」を死守し、中国軍を封じ込めたいと考えているのではないか。

しかし、日本側は中国に配慮して、「台湾」ではなく「台湾海峡」という言葉だけを使用し、お茶を濁した。我が国は政治的・軍事的に米国との関係が緊密である。だが、経済的には、依然、中国に依存している。したがって、日本は中国に対し、強硬な姿勢を取るのが難しい。財界が日中関係悪化を望んでいないからである。

一方、日本側の不満の理由は、米国側の首脳会談への準備が遅れ、ぎりぎりになって開催にこぎ着けたという状況だったからである。結局、日米の「夕食会」も開かれる事はなかった。

当日、中国在米大使館報道官は「台湾」に言及した日米首脳共同声明に「強烈な不満と断固とした反対を表明する」との談話を発表した。そして、日米による台湾に関する内政干渉(=主権侵害)だと反発している。

そもそも、中国共産党の台湾領有の主張は正しいだろうか。1949年以降、同党は70年以上、(澎湖島を含む)台湾本島を一日たりとも統治していない。したがって、同党が台湾に対する主権を主張するのは、無理があるだろう。

一方、台湾総統府報道官は「米国と日本政府による台湾海峡の平和と安定重視に感謝し、評価する。インド太平洋地域の平和と安定にとってプラスになると信じる」というコメントを発表した。

ところで、「バイデン政権」は日米首脳会議直前、台湾海峡両岸に特使等を派遣した。

アーミテージ元国務副長官(共和党)・スタインバーグ元国務副長官(民主党)・ドッド元上院議員(同)が非公式に訪台している。そして、同15日、彼らは、蔡英文総統に面会し、「台湾の民主主義を支持」した。

他方、ケリー特使が上海へ派遣された。4月15日、ケリー特使は、解振華(中国気候問題担当特使)と、翌16日、韓正副首相や外交トップの楊潔篪共産党政治局員と会談した。そして、気候変動に関して、米中が手を携えて排出量削減のために行動すると謳った「米中共同声明」が発表されている。

その後、4月22日・23日、米国主催の気候変動サミットが開催された。

最後に、近頃、喧伝されている中国の「台湾侵攻」について触れておこう。『孫子』は、「戦わずして勝つ」事をベストとする(むやみに武力を使用するのを戒めた)。代わりに、相手国を①威嚇、②偽情報、③賄賂、④ハニートラップ等で篭絡させる。おそらく、北京も『孫子』的な行動様式を取り、米中戦争につながる「台湾侵攻」を自制する公算が大きいのではないか。